大阪軍政部民間教育課

1948年10月5日

件名:PTA

1 PTAに先立って、大阪府のほとんどの学校では、2つの型の保護者団体が存在した。名称は保護者会すなわち育友会と、母の会(婦人会?)である。

a 保護者会においては、全家庭の父親が会員となるとされていた。この団体の唯一の目的は、学校経営のための財源を確保することにあった。総会や実務はないが、40〜50名の委員によって運営され、学校への資金援助やどうやって必要な予算を満たすかを決定するために、定期的に集まった。各保護者には実質的な権利はないが、全保護者は始業式(入学式?)、卒業式、運動会といった式典や行事への出席が期待された。保護者会は保護者を代表していないが、「ボス」が学校を完全な支配下に置き、しばしば誤った資金運用がなされた。

b 母の会は、多くの学校で、他の団体に比してよりよく家庭を代表するものとして存在した。会合は月一回行われたが、主要な目的は、有料講演や教員による講義を傾聴することにあったようである。教員の社会的地位は高く、それによって母親側の実質的参画や反響はなかった。

2 民主化教育の実施と封建的官僚的概念の払拭のため、以下の目的を念頭にPTAを結成した。

a 家庭、学校、地域における児童の教育上の成長と福祉の増進のため、前記の組織はひとつの団体となり、保護者(父母)、教員、意欲ある地域の人々は、共に活動する。

b 学校が新教育体制において達成すべき事柄を保護者が完全に理解すること、家庭と児童を取り巻く社会環境に対するいささかの知見を持って,教員はおのおの児童に適した教育的必要性への理解を深めること。

3 以下の計画を実行し、最終目標を達成する。

a 税金からの十分な財源で、公立学校を運営し、それによって全児童が均等な教育機会を得ることを可能にし、寄付や割当負担による教育費集めをする現行体制を除去する。

b 教員の資質向上と給与及び労働環境の改善

c 公平・平等を基礎とした、すべての会員による活発な活動。また多数派の意見を取り入れつつ、少数派の意見表明を尊重すること。

d 保護者・教員、相互の親睦と協力

4 PTAは下記の段階を踏んで、設立された。

a 民主的PTAの規約は、要望があった全ての学校に見本例として送付した。無記名投票による役員(1年任期)選挙、男女同数の役員、低廉な会費が、この規約に明記されている。旧保護者会の役員は、PTA役員として選出されるのにふさわしいとはみなされなかった。そして、各PTA役員および10名(以上?)の会員からの有効な署名入り趣意書(同意書)が、PTA設立認可以前に、占領軍政府が要求したものであった。全PTAの規約が、訂正と設立許可のために、占領軍政府に送付された。府庁や地方自治体による綿密な調査が行われたのは、無記名投票が実施されず、他の方法で選挙が行われた事例に対してであった。これは、PTAは自由意志による参加を基本とし、任意の会員とともにPTAを設立すべきということの提示であった。

b 一連の数多くの説明会が、PTAを組織化するにあたって、可能な限りの支援を与えるために、占領軍政府によって開催された。父親、母親、及び校長が、府下の全ての公立・私立学校(幼稚園から高校まで)から、これらの最初のシリーズの説明会に出席し、下記の計画が示された。

(1) PTAの目的とねらい
(2) どのようにPTAを組織するか
(3) 議会制の手続きの説明
(4) PTA規約の詳細説明
(5) PTA役員選挙のデモンストレーション

c 役員選挙後、第2弾の終日にわたる説明会が行われ、全学校を代表して役員、会長予定者、校長が参加し、この一連の説明会で、以下の情報が与えられた。

(1) PTAの事業計画をどのように実行するか
(2) PTAにおける役員の役目
(3) PTAにおける各委員会とその機能
(4) ?団体における議事進行の手続き?
(5) 男女共学
(6) 給食実施計画

d 第3弾の説明会は全府の小学校から6名のPTA会員が参加した。PTA活動とPTAが組織化されて以来の問題点を議論した。

5 多くの問題にすべてのPTAが直面している。

a 主要な問題は、学校経営と教員給与の原資不足に起因している。学校に資金を融通することがPTAの責務でないことは、ほとんどの単位PTAに理解されて   いるけれども、現時点では代案がない。これにより、日本のPTAの目標は、合衆国のPTAと同じ方法で達成することが出来ない。一部の人々に伝えることが出来ないことがある。予算に計上されていない付加的な設備・備品をPTAの単独の資金援助によって学校に供給することが出来ないということを。例えば、教員がその給与によって生計が成り立たないとき、校舎の窓にガラスがないとき、暖房がないとき、学校全体において、最低限の必需品が不足しているとき。

b 日本人は民主的な組織で共に活動した経験がないという現実及び、少数者による支配が一般的な認識であるという問題がある。単位PTAにおける一部の役員や委員の役割への理解不足があり、それは、戦前日本の封建的思考の結果である。変革は短期間には成し得ないし、それは漸進的な変化となるであろう。民主化の真髄がより鮮明な概念となることによって。

6 PTAにおいてしばしば問題点とみなされるものに対して、下記のように忠告がなされた。

a 学校教育費は公共(行政)の問題であるべきで、現行の学校予算要求は税収によって満たされるべきである。したがって、財政的に学校を支援するために、PTAの会費が必要とされる場合、それは応急的な支援とみなされるべきであり、できるだけ早急に、学校は完全に税金で運営されるという世論に到達するように努力すべきである。

b 全ての主要な問題において、単位PTA全会員の承認を得るべきである。資金造成方法、及びそれによる支出に対して、特にそうすべきである。教育資金は、児童が家庭に持ち帰る「お知らせ」を通してではなく、保護者に直接働きかけることで、獲得すべきであり、割当負担及び寄付はボランティアを基本になされるべきである。

c PTAは様々な種類の資金造成活動を行うべきである。たとえば、バザー、おまつり、(慈善のための)宝くじ販売等であり、会員はその能力応じて活動に寄与し、その寄与を誰も強制されてはならない。

d PTA会員は会員の意思によって活動し、PTAによって活動を強制されてはならないことを、役員と運営委員会は、完全に認識すべきである。

e PTAに参加すること自体が権利であり、その権利を行使することが、活動の本分であり、責務であることを、全会員に周知徹底させるべきである。

f PTAは、学校の教育計画を管理し、教職員の職務に干渉すべきではない。PTAは、カリキュラム(授業)や学校経営、教育に関する他の問題について生じた一般的な問題点を学習し、議論できよう。

7 PTAは、現時点で、大阪府下の全ての市町村立の学校および98%を超える県立学校で設立された。短期間にPTAは組織されたけれども、そこには数多くの進歩が見られる。日本の歴史において初めて、男女が同権を基礎としてこの団体に参加している。この団体において、男性の女性に対する態度が漸進的な変化を示している。当初、男性は、女性が会議において発言し、彼女の考えを表明したときに、明らかな軽蔑や不賛成を態度に出していた。しかし、いまや多くの事例において、男性は女性の意見を熱心に傾聴するようになった。女性は地域の問題に対する認識を持ち、その解決を見出すことに関与できることが、彼らにもわかったからである。他の奨励的な側面として、保護者がその子弟の教育において、教員や学校のみに、責任を負わせ任せるものではなく、関係者全ての協力が必要であることを自覚するようになっている。しかしながら、日本人にとって真の民主的団体を完全に理解するのは、多くの時間と経験を要するであろう。PTAの成功は、かなりの程度、日本経済の安定によるところが大きく、税収によって学校教育がまかなわれるようになるまでは、多くの学校で「ボス」の支配が存続するであろう。

訳文は、Y.Iさんから頂戴しました。(2014/2/9 UP)

[GHQ資料のページへ戻る][HOME]